口を大きく開ける行為、例えばあくびや大笑い、奥歯の長時間の治療や手術時の気管内挿管などで顎が外れて口が閉じなくなることがあります。これを顎関節脱臼といいます。
顎関節脱臼が起こるメカニズムについて説明します。
口を大きく開けた時は、下顎頭は関節結節を超えて前方に移動します(2012年5月コラム参照)。しかし口を閉じようとする時にこの下顎頭が引っかかって後方の下顎窩の位置に戻らなくなってしまうと顎関節脱臼の状態になります(図1)。この時下顎歯列は上顎歯列の前方に偏位し、顎関節部の皮膚は凹みます。
顎関節脱臼は脱臼してから経過が短いほど元に戻し易く、1週間以内であれば多くは徒手的に整復することができます。
整復方法は、患者に座ってもらい頭部をしっかり固定して、術者が下顎臼歯部を親指で下方に強く押し下げながら後方にゆっくりと押します(図2:ヒポクラテス法)。
顎が元に戻ったら、しばらくは大きく口を開けないようにし、硬い食べ物は食べないようにして下さい。
整復時に患者は術者の指を強く咬むことがあり危険ですので、顎が外れた時は自分達で治そうとせず、出来るだけ早く歯科を受診して治してもらうようにしましょう。
図1 顎関節脱臼時の顎関節部の位置関係と整復時の力のかけ方(赤矢印)下顎頭は大きく口を開けると前方に移動するが、元に戻らなくなると顎関節脱臼となる. 下顎歯列は上顎歯列の前方に偏位する
図2 顎関節脱臼の徒手的整復法(ヒポクラテス法)座位で頭部を固定し、術者が下顎臼歯部を親指で下方に強く押し下げながら後方にゆっくりと押す