治療中の歯に仮歯を入れるのは見た目を良くするためだけ?

治療中の歯に仮歯を入れるのは見た目を良くするためだけ?

コラム

2013.12.10

歯を形成し歯型を採得してから、作製した歯冠修復物を接着して治療が完了するまでの間、形成した歯(支台歯)には仮歯が装着されます。
 特に前歯の場合、仮歯がないと見た目に大きく影響するため、仮歯の目的が見た目を良くすることだけのように思われがちですが、実は仮歯は見た目以外にも様々な役割を果たすとても重要なものです。
 以下に仮歯装着の目的を列記します。

①審美性(見た目)の確保
特に前歯では仮歯がないと見た目が非常に悪く、日常生活に支障をきたす(図1・図2)

②歯の位置関係の保持
歯を形成し隣在歯との間に隙間があくと歯は移動しやすく、修復物の調整が困難になる(図3・図4)

③咀嚼(そしゃく)機能の回復
仮歯がない状態では食事がしづらくなるので、仮歯で咀嚼機能を回復する。

④歯面の保護
神経のある歯(有髄歯)はしみやすいので、仮歯で歯面を保護する必要がある。また仮歯は形成面が汚染されるのを防ぐ。

⑤歯肉の圧排
歯肉が移動して形成面に接すると、歯と修復物との接着に支障をきたすため(図5)仮歯で歯肉を圧排する(図3・図4)

⑥歯冠修復物設計の指針
歯の形成によって修復物の形態や材料の厚さが適切に確保されるかどうか、仮歯の形態や厚さを見て判断する

⑦発音機能の回復
特に前歯では仮歯がないと発音に影響をきたす

などがあります。
ただし誤解してはならないのが、仮歯はあくまで仮であり、歯と接着させているわけではないということです。長期間放置すると歯面が汚染されて虫歯になったり、仮歯が擦り減って位置関係が変わったりしますので、見た目が良くなったからといって仮歯のままにせず必ず歯冠修復物を接着して治療を完了させて下さい。

形成した直後の前歯
図1 形成した直後の前歯:このままでは見た目が悪く日常生活に支障をきたす。

仮歯装着後
図2 仮歯装着後:仮歯によって見た目を回復するとともに、形態のバランスが取れているか確認する。

大臼歯の形成後
図3 大臼歯の形成後:隣在歯との隙間があるため、このままでは歯の位置関係が変わりやすい。

仮歯装着後
図4 仮歯装着後:仮歯装着によって歯の位置関係を保持しておけば歯冠修復物の調整が容易になる。また適合の良い仮歯は歯肉をきれいに圧排することができる。

歯肉の圧排ができていない状態
図5 歯肉の圧排ができていない状態(矢印):歯肉が形成した歯の上に乗っているため、歯冠修復物の接着がうまくいかない。歯肉が圧排され、図3のような歯肉になっていることが望ましい。

監修者情報
監修情報

森田 誠(もりた まこと) 山手通り歯科 院長

東北大学卒業後、仙台市内の歯科医院に勤務。その後、新宿区の元日本接着歯学会副会長が在籍する歯科医院で8年間勤務。その間、鶴見大学歯学部歯科補綴学第二講座に所属し学位(歯学博士)を取得。
日本歯科審美学会、日本顎咬合学会、日本補綴歯科学会、日本接着歯科学会、日本歯科保存学会に所属し、なるべく歯を残し、美しさを追求することに精進する。その結果、数多くの著書を手掛け、長きの臨床と研究により接着性・審美性に優れた「接着修復治療」を実践。現在、中目黒で開業し日々精度の高い治療を行っている。
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