仮歯を入れたままにしておくとどうなる?
2015.3.26
仮歯(暫間被覆冠)は、歯に最終的な被せ物(セラミッククラウン、メタルクラウンなど)を装着する前に一時的に装着するプラスチック系の被せ物です。
仮歯は、審美性の回復、歯の位置関係の保持、咀嚼機能の回復などを目的として一時的に装着しますが、患者様の中には見た目が良くなったからといって仮歯のまま放置して来院しなくなるケースも稀にあります。しかしこれは非常に危険です。
理由は、仮歯は取り外すことを前提としているので歯と接着させていないからです。そのため仮歯と歯質との間には隙間が容易にできるので虫歯菌が侵入しやすく、虫歯のリスクが非常に高くなります。したがって長期間仮歯のまま放置しておくことは、仮歯の内側にある歯質を虫歯にしてしまうことを意味します。
もう一つの理由は、仮歯は材質的に劣化が早くしかも摩耗しやすいため、口腔内で長期に安定するようにできていないからです。
図1は右上前歯に仮歯を装着して2年以上放置した症例ですが、仮歯は劣化して茶色く変色し、歯質も虫歯で黒くなり(図2)、歯の保存すら厳しい状態になっていました。ここまでくると歯の保存ができたとしても審美的回復は通常の方法では非常に困難になってきます(図3、図4)。
仮歯の装着期間は治療の状況にもよりますが、長くとも1か月くらいを目途にしたほうが良いかと思います。全顎にわたる大掛かりな治療で仮歯をさらに長期に装着する必要がある場合は、時々仮歯を撤去して歯質の状況を確認して、歯質を消毒してから仮歯を再度装着するなどして管理したほうがよいでしょう。
図1 右上前歯に仮歯を装着して2年以上放置した症例.仮歯が茶色く変色している
図2 仮歯を撤去すると内部の歯質が黒く変色し虫歯になっていた
図3 通常の方法では審美的回復は見込めないので、歯根を漂白した後ファイバーコアを接着
図4 セラミッククラウン装着後.歯根を漂白したので歯肉の黒変が消失し、審美的に改善した

森田 誠(もりた まこと) 山手通り歯科 院長
東北大学卒業後、仙台市内の歯科医院に勤務。その後、新宿区の元日本接着歯学会副会長が在籍する歯科医院で8年間勤務。その間、鶴見大学歯学部歯科補綴学第二講座に所属し学位(歯学博士)を取得。
日本歯科審美学会、日本顎咬合学会、日本補綴歯科学会、日本接着歯科学会、日本歯科保存学会に所属し、なるべく歯を残し、美しさを追求することに精進する。その結果、数多くの著書を手掛け、長きの臨床と研究により接着性・審美性に優れた「接着修復治療」を実践。現在、中目黒で開業し日々精度の高い治療を行っている。
院長紹介ページはこちら