乳歯の外傷は永久歯に影響する?
2013.7.8
幼児期の子供の行動は予測不能で、誤って乳前歯をぶつけてしまうことがあります(外傷)。この外傷による乳歯への衝撃が強い場合は、歯髄(神経)の血行が離断して壊死し、歯が茶褐色に変色します(図1)。幼児期の永久前歯は歯槽骨の中で徐々に発育しますが、この時期に起きた乳歯の外傷は永久歯の発育にも影響を及ぼします。
乳前歯の歯根の先端(根尖部)は図2のように永久前歯歯冠の唇側に接する位置にあります。乳歯が外傷を受けると、その衝撃により永久歯歯冠に近接した乳歯歯根周囲に炎症が及び、これが永久歯歯冠の硬化する石灰化時期と重なっていた場合は、永久歯の石灰化不全を引き起こします。その結果は、外傷を受けた乳歯が抜けて永久歯が萌出したときに、永久歯表面の白斑状の変色となって現れます(図3)。これは石灰化不全によってエナメル質の構造が粗造になり透明感が失われるためです。
この白斑は、見た目が気にならなければそのままにしても問題ありません。しかしこれが図3のように範囲が広く目立つ場合は、表面の白斑を削除してコンポジットレジンという歯冠色の樹脂を充填するか、あるいは歯の唇側表面全体を薄く削ってセラミックのラミネートベニアを接着させる方法(図4)で、見た目を改善させることができます。
図1 乳歯外傷による変色(歯髄の血行が離断して壊死したために引き起こされる)
図2 乳前歯と歯槽骨内の永久前歯の位置関係(永久歯唇側歯冠部と乳歯根尖は近接している)
図3 幼児期の乳歯外傷によって永久前歯唇側面に白斑が生じた症例(乳歯歯根部の炎症によって永久歯の石灰化不全を引き起こした)
図4 図3の前歯をセラミックのラミネートベニアで修復(見た目が気になる場合は修復処置が可能)

森田 誠(もりた まこと) 山手通り歯科 院長
東北大学卒業後、仙台市内の歯科医院に勤務。その後、新宿区の元日本接着歯学会副会長が在籍する歯科医院で8年間勤務。その間、鶴見大学歯学部歯科補綴学第二講座に所属し学位(歯学博士)を取得。
日本歯科審美学会、日本顎咬合学会、日本補綴歯科学会、日本接着歯科学会、日本歯科保存学会に所属し、なるべく歯を残し、美しさを追求することに精進する。その結果、数多くの著書を手掛け、長きの臨床と研究により接着性・審美性に優れた「接着修復治療」を実践。現在、中目黒で開業し日々精度の高い治療を行っている。
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